［望夢楼］／［いろいろなよみもの］／「憂鬱戦記」
思い出なんかじゃない、
それは妄想
自分の中で創られてしまった
存在しなかった過去への
ノスタルジア
だけど
そんなものとさえ訣別できずに
ぼくは
存在しなかった昨日を振り返りながら
また明日を生きていく
……だって
捨ててしまうのは
あまりに悲しすぎるから
“ソウダ。
ヒトヲ演ジロ。
ヒトノ真似ヲシロ。
ヒトラシク振ル舞エ。
ヒトデナイコトガバレナイヨウニ。”
ヒトモドキ。
ヒトに似て、ヒトにあらざるもの。
決してヒトたり得ぬもの。
ヒトそっくりの格好して、ヒトの中にまぎれこんで。
ヒトと交わって、ヒトと付き合って。
だけど、ヒトモドキはいつでも不安。
“ヒトデナイコトガバレヤシナイカ”
自分独りになって、ヒトの衣を脱ぎ捨てて、
そうしてやっとヒトモドキは、安らぎを得る。
ヒトモドキは自問自答する。
“ナゼボクハヒトノフリヲシナキャナラナインダロウ”
だけど、答えは出ない。
ヒトモドキは生まれた時から
ヒトにヒトと思い込まれてきたのだ。
自分がヒトじゃないと気づいているのは
ヒトモドキ自身だけ。
ヒトモドキは時々仲間を求める。
だけど、仲間の見つかるあてもなく、
そもそも、
仲間などというものがいるかどうかもわからぬまま。
それで仕方なく、ヒトモドキはまた、
ヒトの中へと去ってゆく。
だから、ヒトモドキはいつでも孤独。
だから、ヒトモドキはいつでも憂鬱。
透徹した目を持ちたい
明日を見渡せる目を
冷ややかな
――そして暖かい目を
権威への気高き反抗心だと思っていたのは
ただの錯覚
それは
自分こそが権威になりたいという感情の
屈折した裏返し
夢溢れるロマンだと思っていたのは
ただの勘違い
それは
昔の自分は他人［ひと］より偉大だったと信じたがってる
醜いエゴイズム
ほんとは ただ単に
「自分が一番偉い」と
言いたいだけなのに
なのに
そんな簡単なことに
誰も気付かないで
勝利へ向かって突き進んでるつもりで
破滅への道を突き進んでく
せめて 鏡に写ったその姿を
見せてあげらける人がいればいいのに――
道化師を飼おう
とびきり上等の道化師を
身の丈数cmのちっぽけな
宙に浮いている奴を
――世界を嗤うために、
世界を嗤わせるために。
餌なんていらない
あなたにほんのちょっとだけ
ユーモア感覚があればいい
そうして その道化師を
あなたの頭のほんのちょっと上に
漂わせておくのだ
――世界を嗤うために、
世界を嗤わせるために。
そして、
あなた自身をも嗤わせるために。
あなたの頭の20cm上空で
道化師が笑ってる
では、始めましょうか。
宙に浮かぶたわごとを集めて
瓶一杯にする作業を。
決して、
こんなこと、どんな意味がある、
などと聞かないように。
――だって、ここにあるのは全部、
たわごとなんだから。
［望夢楼］／［いろいろなよみもの］／「憂鬱戦記」