［望夢楼］／［謎の疑似科学世界］／［神々の疑問０］

　グラハム・ハンコック(Graham Hancock)の『神々の指紋』("Fingerprints of the Gods")（上・下、各1500円）（大地 舜：訳／翔泳社　1996）が売れている。一時の売れ行きほどではないようだが、同じ著者の『神の刻印』（凱風社　1996）、『創世の守護神』（ロバート・ポーヴァルとの共著、翔泳社　1996）ともどもよく売れているようである。
　初めのうちは何やらまた変な本が売れているな、といった程度にしか思っていなかったのだが、それがそのうちテレビで取り上げられ、ついにミリオンセラーを記録するに及んで認識を改めざるを得なかった。そのうちに身内がこの本を入手してきたので、それを借り受けて読んでみた、の、だが……。
　いやはや、なんでこんな程度の本が売れているのだろう？
　この一文は、私、望夢楼が『神々の指紋』を読んでみて感じた疑問と批判を、私なりにまとめてみたものである。
　もっとも、浅学故、ミスや間違い、不適切な表現などもあることと思う。そうした点については遠慮せず指摘してほしい。また、感想、意見なども教えてくれれば幸いである（メールは mei-mu ★ nifty.com まで）。

　なお、本稿執筆中に、Ｈ・ユウム＋Ｓ・ヨコヤ＋Ｋ・シミズ共著『「神々の指紋」の超真相』（データハウス　1996）なる批判書が出版されたので早速読んでみた。主にハンコックの主張の事実関係に関するまとまった批判であり、本稿執筆にあたって参考にした部分もある。興味のある方は読んでみてほしい。
　また、他に、私が見つけた限りでの批判としては、

• 朝日新聞1996年10月12日朝刊「シュリーマン再来？　トンデモ本？」
  井狩春男・吉村作治・岡田英弘・志水一夫各氏による批判。
• 『Ronza』1996年11月号「特集・超々ベストセラーの秘密：『神々の指紋』──虚飾と増量剤に使われた『科学』」柏原精一
• 『創龍伝　８』　講談社文庫　1996
  巻末の田中芳樹・山本弘両氏の対談

　などがある。

　まず。
　著者グラハム・ハンコックについては、カバーの著者略歴によると、

元『エコノミスト』誌の東アフリカ特派員。著書にはThe Sign and the Seal, Lords of Povertyなどがある。『神々の指紋』は五年間にわたる世界各地での調査の後、執筆され、英国で発売されるや、二週間でベストセラーのトップに踊り出た。現在まで十二ヵ国で発売され、各国で大反響を巻き起こしている。

　とある。そして、『神々の指紋』で彼が主張していることを簡単に要約してみると、以下のようになる。

• 古代南アメリカ文明や古代エジプト文明の発祥は、定説よりはるかに溯り、約13,000年前にまで溯る。しかもそれは、それに先行する滅亡した超古代文明の指導を受けて出来たものである。
• 超古代文明は南極にあったが、約13,000年前、地軸の移動による大災害によって滅亡した。だが、その痕跡や記憶はあちこちの遺跡や神話・伝説という形で残されている。

　だが、私がこの本を読んでみたところ、

• 全編これ、引用につぐ引用。著者のオリジナリティのある部分がほとんどどこにも見当たらない。（インタヴュー等で大威張りしているのは、あれは何なのだろう？）
• 「五年間にわたる世界各地での調査」をしたそうだが、まともな学術調査をやった様子がない。本文中の記述を読む限り、ただの「世界謎の遺跡観光旅行」をしてきたとしか思えない。
• 現在、異端と見なされている説をほとんど無批判に支持しているにもかかわらず、現在の“定説”“有力説”に関して十分に検討した形跡がない。
• 一見、冷静で慎重に論を進めているように見えるが、その実「……ではないだろうか」といった無責任な推論の連続で、何も立証してはいない。
• 事実誤認、曲解がまま見受けられる。
• ＳＦとして読んでみれば十分楽しめる。もっともそうして読んでみると、ぶっとび方がいまいちである。

　……一部では著者ハンコックを「現代のシュリーマン」と持ち上げる向きもあるようである。どうやら世間では、ハインリッヒ・シュリーマンの名前は覚えていても、イマニュエル・ヴェリコフスキー（注１）やエーリッヒ・フォン・デーニケン（注２）とかいった名前はとうに忘れてしまっているらしい。
　以下、『神々の指紋』の各部分について、検討してみることにしよう。なお、以下の文中での「上巻p.xx」「下巻p.xx」といった表記は、特に断りがない限り『神々の指紋』の上・下各巻のページ数を示している。

• その１　いったいどこが正確な地図!?　──南米大陸とつながった南極大陸、巨大な南極大陸──
• 続きは現在執筆中。
• 番外編
  
  
• 翔泳社版・『神々の指紋』のページ
  翔泳社（『神々の指紋』の版元）のホームページより。『神々の指紋』関連Webサイト一覧もある。
• 神々の指紋　非公式ファンページ
  石井則文さん作成。ファンの立場からのページということだが、［「神々の指紋」はトンデモ本？］と題するページで批判にもきちんと触れている。
• 『神々の指紋』批判のページ
  春田晴郎さん（東海大学文学部文明学科）作成。『神々の指紋』の嘘と問題点を、引用文の検証などによって徹底的に検証している。（正直言ってここまでひどい引用をしているとは思いませんでした。う～む……。）
• 「神々の指紋」 －真実か？デタラメか？－
  “やぎ”こと川辺禎久さん（工業技術院地質調査所）作成。主として地球科学的観点から『神々の指紋』の批判を行なっている。
• 「神々の指紋」の超真相 Book Review
  原田 実さんの書評のページから。『「神々の指紋」の超真相』の批判の形をとって、『神々の指紋』とその翻訳者を批判している。
• Fingerprints of the Gods Official Home Page
  英文による公式ホームページ。

1. イマニュエル・ヴェリコフスキー Immanuel Velikovsky (1895-1979)
   ロシア生まれのアメリカの精神分析医。著書『衝突する宇宙』(1950)（邦訳－鈴木敬信：訳／法政大学出版局　1951）で、世界各地に残る伝説・神話・歴史書などを調べた結果、金星は木星から飛び出した彗星のなれの果てであり、金星が今の軌道に落ち着くまでには火星の軌道を狂わせ、さらに金星と火星が地球に接近したため地軸が数度に渡って変化、地球の回転を止めたりするなどの大災害を与えたと主張し、アメリカ科学界に大騒動を巻き起こした。
2. エーリッヒ・フォン・デーニケン Erich Anton von Daniken (1935- )
   スイスの作家。『神々の戦車？』(1968)（邦訳－『未来の記憶』松谷建二：訳／早川書房　1969、角川文庫　1974））以下の一連の著作で、世界各地に残る伝説・神話・歴史書などを調べた結果、地球人は宇宙人の末裔であり、太古に宇宙人が来たという痕跡が地球各地に残されている、と主張し（その証拠としてピリ・レイスの地図やナスカの地上絵などを挙げている）、いわゆる「宇宙考古学（古代宇宙人飛来仮説）」の一大ブームを巻き起こした。

1. Ｃ・Ｚ・カズー＋Ｓ・Ｄ・スコット Jr.／志水一夫：訳『超古代史の真相』（東京書籍　1987）
2. と学会：編『トンデモ本の世界』（洋泉社　1995）

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